【本の紹介】ほしおさなえ『言葉の園のお菓子番』

 

連句というものをご存知でしょうか。

俳句や短歌といった文芸的な遊びの仲間で、古くは奈良時代以前から続いてきたものだそうです。江戸時代などには流行した遊びだったものの、時代が進むにつれ人気も下火にってしまいました。

そんな連句を私が知ったのは、とあるブロガーさんがおすすめされていた本がきっかけです。

 

 

ほしおさなえさんの 言葉の園のお菓子番 です。

ひょんなことから連句を始めた主人公が、さまざまな人と出会い、前に進んでいく、”つながり”がテーマの作品です。現在5巻まで発売されている人気シリーズでもあります。

この記事では「言葉の園のお菓子番」を紹介していきたいと思います!

 

 

 ほしおさなえ 作家・詩人。1995年、別名義で発表した『影をめくるとき』で群像新人文学賞優秀作受賞。その後に発表した「活版印刷日月堂」シリーズが話題を呼ぶ。ほしおさんが連句に出会ったのは学生時代。連句に魅了され、自ら連句会を主催することも。「連句の面白さを伝えたい」という思いから『言葉の園のお菓子番』が生まれた。 

 

 

 

 

言葉の園のお菓子番

 

 

勤めていた書店が閉店し、職をなくしてしまった一葉(かずは)。

先の見えない不安を抱えながら実家に舞い戻った彼女は、祖母・治子(はるこ)の遺品から、治子の趣味だった 連句 のノート、そして一葉に宛てて書かれた手紙を見つけます。

 

ひとつばたご」に行って、わたしのことを伝えてくれるとうれしいです。そのときはこのお菓子を持っていってください。
(「言葉の園のお菓子番 見えない花 」P17)

 

治子は月に一度、必ず季節のお菓子を持って、連句会に参加していたのでした。

手紙には毎月のお菓子のリストが添えられており、メッセージを読んだ一葉は、3月のお菓子「長命寺桜もち」を携え、祖母が生前に通っていた連句ひとつばたごを訪れます。

 


 

連句とは

 

 

この作品の題材になっている連句とは、俳句や短歌のように、五七五や七七の形で句を作る遊びです。俳句などと違うのは、 複数の人で句をつくる ということ。

誰かのつくった五七五に、違う誰かが七七の句を付ける、そこにまた違う誰かが五七五を付けて……と、連句という名前の通り、句を連ねていくのです。

 

霧雨の静かな音が積もりゆく  萌
 ただひたすらに電話待ってる 蛍
恨むのも思い出すのも恋のうち 直也
(「言葉の園のお菓子番 見えない花 」P184)

 

ただ句を並べていく、というわけではなく、「季語を織りまぜる」、「ここは月に関する句」、「ここは人が出ない句」などの決まりごともあります。

ひとつばたごでは、集まったメンバーが一斉に句をつくり、出来たものの中から、会をとりしきる「捌き(さばき)」という人が、一番良いと思うものを選んでいく、という流れです。

つくる句の数は、全部で36句。この36句でいわば一つの作品となり、最後にはきちんとタイトルもつけます。

句をつくる、というと堅苦しそうですが、雑談の中から句が生まれることもあり、ひとつばたごの連句会は、いつも和気あいあい。

みんなとつくる、たくさんの感性が入り混じる、というのが連句の魅力です。

 

1巻で登場するひとつばたごのメンバーの句は、すべてほしおさなえさんが作られているそうです!

 


 

登場人物

 



ひとつばたごには、さまざまな人が集います。

会を取り仕切る航人(こうじん)さんをはじめ、大学生の蛍さん、俳人の桂子さんに弁護士の悟さん、子育て真っ只中の萌(もえぎ)さん。

一葉にとっては、祖母の遊び仲間でもあった人たちです。

祖母の治子は、優しく穏やかな性格で、少なからず一葉を支える存在でした。

祖母の思い出を語らうことの出来るひとつばたごは、亡くなった祖母と繋がる、架け橋のような場所。

また、ひとつばたごでの出会いをきっかけに、一葉は新たな縁にも恵まれす。

一度立ち止まった主人公が、連句をきっかけに人や心と繋がり、新しい道を歩きだしていく。

そんな姿が、この物語には描かれていきます。

 


 

もう一つの楽しみは

 

連句は長丁場になるため、ひとつばたごでは毎回、小休止が挟まれます。

そこでメンバーたちがわいわいと食するのが、お菓子。

一葉の祖母の治子は、連句会の場には必ず、季節折々のお菓子を携えて行きました。その祖母の想いを引き継いだ一葉もまた、連句会には季節のお菓子を用意します。

毎話、さまざまな東京の銘店のお菓子が登場し、今回はどこのお店のものかしら、というのも、この作品の楽しみ。

なかなか値が張るものもありますが、チャンスがあれば食べてみたい!

 

イラストはイメージです




 

感想

 

ほしおさなえさんの作品を手に取るのは、これで4度目です。

和紙を題材にした『紙屋ふじさき記念館』、染織を扱った『まぼろしを織る』小江戸・川越が舞台の『菓子屋横丁月光荘』と読み継いできて、古き良きものを大切にされる作家さん、という印象を受けました。

そしてこの『言葉の園のお菓子番』。

心を掴むのは、洗練された言葉です。句を作るのに使えるのは、たった17字、あるいは14字。余分なものを削ぎ落とした言葉は、冴え冴えと心に響くのです。

前の句に込められた想いを汲みとって、自分の句を添える、という連句のスタイルも、温かい感じがしますね。

 

2巻以降では、ひとつばたごに新たなメンバーが加わります。1巻では縁を繋いでもらう側だった一葉も、人と人を繋ぐ役目を負い、新しい仕事も見つけ、さらに前進。

言葉の美しさを味わいながら、移り変わっていく人の営みと一生、そんなことに思いを巡らせてしまう作品です。

 


 

まとめ

 

連句には 「前の句とは繫がっていいけれど、前の前の句とは離れなければいけない」 というルールがあるそうです。

前の句から連想して自由に句をつくる。

ただし、前の前の句とは、情景もガラリと変えたほうが良い。

繋がりと変化を同時に求められるルールです。

そうやって、次々と変わる世界や景色を旅するのが、連句の醍醐味なのかもしれません。

すべての句が出揃ったとき、1句目と36句目は、全く別物に見えるかもしれないけれど、振り返れば、みんなで繋いできた軌跡が確かにある。

連句を通して、人や思いと繋がり、新しい場所へ歩んでいく。そんな主人公の物語を、ぜひお楽しみください!

 


\ 今回紹介した本 /

 

言葉の園のお菓子番

ほしおさなえ

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました!

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